種別・分類 | とる・つくる・運ぶ(生産・運搬用具) |
アイヌ語名 | チプ cip |
和名 | 丸木舟 |
サイズ(mm) | 長6340 最大幅640 高420 |
材料・材質 | 材質:かつら |
製作者 | 萱野茂 |
収集(製作)時期 | 1965/昭和40年頃 |
収集(製作)地域 | 二風谷 |
説明1(使用場所・方法) | 「チプ(舟)とは「チ=我ら、オプ=乗るもの」という意味であり、これは丸木舟のことです。この丸木舟は、昔のアイヌたちにとって欠かすことのできない生活必需品でした。(文献1-P135)」▼ |
説明2(製作方法) | カツラ。▼「私がはじめて丸木舟を造ったのは、昭和二十二年の春でした。自家用の舟を造ろうということで、二風谷村の対岸にあるパラタイ沢で、父の指導を受けながら掘りました。舟造りは、木を選ぶことからはじまります。舟を造るのにもっともよい木はばっこ柳で、その次がかつらの木です。 太くて舟に造りたいようなピンニ(やちだも)やチキサニ(にれ)の木は重いので、舟を造ってもあやつりにくく、操作をあやまり岩に激突したりして、時には死者を出すことにもなります。それで、これらの木で造った舟をケユクチプ(ケウ=しかばね、ウク=取る、チプ=舟)と呼んで嫌いました。山を歩きまわって舟材になる太くてまっすぐな立ち木を選ぶわけですが、アイヌは、まっすぐに伸びて、枝の張り方も均整がとれた立ち姿の美しい木を、心の正しい木であると考え、舟を造る場合はそのような木を選びます。(文献1-P135)」▼「安定の良い舟を造るための絶対的な条件は、立ち木の北側を舟底にすることです。つまり、北側は日当たりが悪いため木の生育が遅くて年輪がつまっており、成長の早い南側に比べると重いので、北側を舟底にすると重心が下がって安定がよいわけです。立ち木の北側を俗に[雪背負い」といいますが、これは冬中雪がへばりついていて雪を背負っているようにみえるからです。夏でもこの雪背負いにはこけが生えています。したがって、山で道に迷った場合、たとえ夜であっても、太い立ち木をなでてみてどちらが北であるのか方角を確かめることができるのです。木を伐り倒したら、節やこぶのないところを選んで長さを決めます。節やこぶのある部分は、削ると往々にして空洞になっていることがあります。舟を掘っていくときには、人数が多いと危険ですので、二人で作業します。最初は、まさかりで皮をきれいにはぎ取ります。年輪を見てもう一度確認し、北側を下にして両端を三尺(九十センチ)ずつ残し、上面の七、八か所に鋸目を約六寸(十八センチ)の深さに入れていきます。そして、鋸目ごとに割りとりながらその深さまで平らに削り、両端は上から四寸(十二センチ)くらいのところから下は斜めに削りおとします。舟べりの厚さを決め、まさかりで舟の内部を荒ぐりしてだいたいの舟の形を作ります。ここまでに二人で五日から一週間はかかるでしょう。それからは一人で、もったを片手に持ってまさかりの跡がなくなるまできれいに削りとり、内側から仕上げていきます。削りすぎないように手でなでて厚みを計りながら慎重に削りとっていきます。とくに舟の舳先の上面はチプナンカ(舟の顔)といって、ま上から見ると美人の富士額を思わせる形に削ります。内側をくり終わったら、舳先とともの部分の両わきを削りおとします。それから中へ棒を立てて深さを計り、その棒を舟の外側から当てて内側の舟底の位置を印をつけてから舟をうつ伏せにします。 舟をひっくり返すときはてこを応用するわけですが、直径十センチ、長さ五~六メートルほどの棒を片方を長くして舟べりと直角にしっかりとしばりつけます。そして、棒の先端に綱を結びつけて引っぱると、二人くらいで楽に返すことができます。このやり方は、四百キロもある熊を一人でとって、皮をはぐために熊をあおむけにしたいときにも使います。熊の足と胴体にてこ棒をしばりつけて引っぱると、一人でも楽にひっくり返すことができるものです。 舟をひっくり返したら、舟底の厚さが十センチくらいになるように外側を削りとり、舳先とともの部分はいくぶん丸みをつけながら斜めに削って、舟底を仕上げます。舟底を仕上げたらもう一度表に返して、綱を通すプイという穴を舳先にあけ、それより少し内側の舳先より三尺(九十センチ)くらいのところにチプサキリという横棒を取りつけます。このチプサキリの取りつけ方は、両方の舟べりに一方のは深くもう一方のは浅く、それぞれ穴を掘り、取りつける横棒を深い方の穴にいっぱいに差しこんで、それを戻しながら浅い方の穴にぴっちりとはめこみます。そして、深い方の穴の奥にできた隙間には木屑をたんねんに詰めこんでふさいでしまい、横棒がまわったりぐらついたりすることがないようにします。このやり方を俗に「厩栓棒方式」と呼んでいます。そしてこのチプサキリから十センチぐらい舳先よりの舟べりの内側に直径二センチ、深さ一センチほどの窪みをつけます。これは舟を上流へ遡上させるとき、一人が舟の綱を引き、他の人が棹をこの窪みに当てて岸から舟を押しはなすためにつけられたもので、このようにして舟を引っぱると本当に楽に舟を遡上させることができます。この智恵の窪みのことをアイヌ語で何というのかを父から聞きもらしたことを残念に思います。(文献1-P136.137.138)」▼ |
博物館資料No. | NAH-M-19910497 |
収蔵場所 | 平取町立二風谷アイヌ文化博物館 |
文化財指定 | 国指定重要有形民俗文化財 |