1957年に平取本町で行われたイオマンテ 当館所蔵
重要無形民俗文化財
アイヌ古式舞踊
- 【地域に継承される様々な踊り】
- アイヌが育んできた芸能に歌や踊りがあります。地域毎の特色が顕著で、日々の娯楽や儀式で演じられたり、作業の動きに合わせて行なわれるなど、様々な種類や意図があります。これらは伝統的な暮らしの中で形成されてきた信仰と密接に結び付いており、多くは家庭やコタン(集落)で歌い踊ることによって継承されてきました。
踊りの種類は祭祀的な意味合いをもつ儀式舞踊、鳥や獣、自然の中にあるものを真似た模擬舞踊、遊びの要素を含んだ娯楽舞踊などがあります。これらは様々なカムイの意志や儀礼動作、雅語を色濃く伝えており、中には舞踊の発生を考察するに足る内容をも含んでいます(表1)。
こうした多様な価値が認められ、昭和59(1984)年に重要無形民俗文化財、平成21(2009)年にはユネスコの無形文化遺産の代表的な一覧に登録されました。 - 【アイヌ古式舞踊の保存と普及】
- 重要無形民俗文化財「アイヌ古式舞踊」の保持団体は、北海道アイヌ古式舞踊連合保存会を含む道内の18団体で、その中に平取アイヌ文化保存会も入っています。現在、北海道内外で行なわれるアイヌ古式舞踊の披露は、多くの担い手による保存活動の一環にもなっています。二風谷アイヌ文化博物館が主催する体験学習でもアイヌ古式舞踊をメニュー化しており、団体旅行等の来館者に体験してもらう機会を設けています。
- 【平取アイヌ文化保存会の発足】
- 近代以降、アイヌの文化伝承を取り巻く環境が大きく移り変わりました。そのため、地域の歌や踊り、楽器などの演奏を正しく継承していくことが難くなっていきました。しかし、そのような時代にあっても、儀式などの場でアイヌプリ(アイヌ式)の作法は受け継がれていましたし、生活の中で昔ながらの歌が口ずさまれることもありました。 昭和58(1983)年には平取アイヌ文化保存会が結成され、アイヌの精神文化、物質文化を単なる記録としてではなく、できるだけ生活の中で生きたものとして保存・伝承する取り組みが行われるようになりました。 平取町二風谷アイヌ語教室子どもの部では、実際に見聞きした方に教えを受けながら、残っていた映像を研究して古い踊りの再現が行われたりしてきました。その成果は、町内で行われる「シシリムカアイヌ文化祭」を始め、北海道内外の催しで発表されています。
- 【主な伝承曲目】
- アイヌ古式舞踊において、踊りの開始を知らせる役目をもつ座り歌があります。沙流地方では「ウポポ」と呼ばれるもので、シントコ(行器)のフタを叩いてリズムをとりながら、ウコウクという輪唱法を用いて同じ旋律を追いかけるように歌います。舞踊の終わりに行なわれる「ホリッパ」は自由に踊り歌うもので、踊る人たちを囲んで大きく円を作ってはやします。最近では周りの円だけで踊られることも多く見られます。様々な生き物を模した模擬舞踊には、鳥を真似たものが多くみられます。平取町ではハララキ、アンナホーレ、チャクピヤクなどがあり(表2)、主要な披露演目にもなっています。アンナホーレやチャクピヤクは、細かいリズムに合わせて小さく飛びながら円を描き、立ち位置を入れ替えながら踊られます。小気味よい躍動感で空を舞う鳥が表現されており、とても踊りごたえがあります。
- 表1 いくつもの歌と踊り
- ・座って数人で歌う歌
数人の歌い手が漆塗りの器のふたを囲んで座り、全員で手で軽く叩いて拍子を取りながら歌う。平取地方ではウポポとよばれる
・輪になって踊る踊り
一同が中心を向いて円陣をつくり、歌いながら時計回りに進んでいく踊り。平取地方ではホリッパとよばれる
・杵つきをしながら歌う歌
穀物などをつくときに、その動作にあわせて歌う
・動物の仕草をおり込んだ踊り
動物の仕草を真似た動きをおり込んだ踊り。ツル、シギ、アマツバメ、ネズミ、キツネ、バッタなどの踊りがある
・男性が舞うもの
床をゆっくり踏みしめながら両腕を上下させおごそかに舞う。弓矢や刀を手にして踊る踊りなどもある
※これらのほかにも様々な種類の歌や踊りがある
(北海道立アイヌ民族文化研究センター 2001)
- 表2 平取地方で伝承されている踊り
- ・チャクピヤク(cak piyak:アマツバメの舞)
アマツバメが空を飛び交う様子を表現した動きの激しい踊り
・フントリフンチカプ(huntori huncikap:ワタリガラスの舞)
ワタリガラスが水浴びをしたりしながら遊んでいるといわれる踊り
・ハララキ①(hararki:ツルの舞)
場所が広くて踊り手の人数が多いときは3列になって踊る。真ん中の長い列がツルの胴体になり、両脇の短い列はツルの翼になる
・ハララキ② ツルが湿原に遊ぶ様子を表現した踊り
・ウフンペネレ(u humpe ne re:クジラの舞)
海岸に上がった寄りクジラをお婆さんが見つける様子を表した踊り
・アンナホーレ(anna hore:鳥の舞)
すでに何という鳥なのか分からなくなってしまった踊り
(平取アイヌ文化保存会 『アイヌ古式舞踊解説』を改編、一部抜粋)